2025年間ベスト

今が華!!!!

12.「私の王子様」- チョーキューメイ

日本の4人組バンドのシングル。3分ほどの短い楽曲ですが、細部のアレンジや展開の妙によって、映画一本分のドキドキを味わえるグッドラブソング。軽快に走り出す冒頭のアコギのストローク、夢中の切なさを醸す2番冒頭の繊細な鍵盤音、迷いから覚悟へ向かう瞬間を思わせる2サビ前のブレイク。。

謡曲やニューミュージックの流れを仄かに感じさせる、情感の高まるメロディーもお気に入り。麗のブレスを活かした歌声が、このメロディーの良さを最大限に引き出しています。そして、もうこれは癖なのですが、こういうスウィング感のあるビートの歌謡に弱いんです。乙女なので。

私の王子様

私の王子様

  • チョーキューメイ
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

11.「BRANDY SENKI」- ブランデー戦記

日本の3人組ロックバンド、満を持してのファーストアルバム。多彩!この多彩さは、彼女たちの興味関心の幅広さに由来するように思います。収録曲のメインを占めるのはグランジサウンドでドライブする楽曲群。しかし、シティポップに接近する「悪夢のような」、陰鬱なワルツ「メメント・ワルツ」、など一本調子にあらず。さらに、メンバーの映画からのインプットを反映したビジュアルワークも含め、てらいなく「好き」を詰め込む手つきからは、表現者としての懐の深さを感じます。そこに、さらなる飛躍の可能性を見て取ったり。

最初に完成形がはっきりしていて、設計図どおりに仕上げていく方法論とは真逆で、設計図を思うままに書き進めながら、完成形を都度更新していくような、どこへ行くかわからない面白さ。このバンドの物語が、まだ始まったばかりなのがとても嬉しい。

 

Brandy Senki

  • ロック

 

10.「Standing Ovation」- Stella Donnelly

オーストラリアのSSWによる、約3年ぶりのフルアルバム。彼女の作風は、アルバムを出すごとに内省的になってきていると感じます。デビュー当時、#MeToo運動の文脈で楽曲が言及されるなど、自らの表現物が社会的な責任を帯びることを、早々に理解せざるを得ない環境に彼女はいた。だからこそ、作品を経るにつれ、彼女は何を表現するのかという能力を、どこまでも繊細にかつ鋭く磨き上げることができたのではないでしょうか。そして本作は、彼女が精選した表現だけが収録されている、純度が高まった、現時点での到達点、というように感じます。

「please everyone」で繰り返される「誰かを喜ばせるとき、私たちは自分を隠してしまう」「あなたは全ての人を喜ばせることはできない」という言葉。どれほどの内省を経て、こんな言葉が詞になるのか。自分を抱きしめたくなる、そんな音たち。

 

Love and Fortune

Love and Fortune

 

 

9.「団地テーゼ」- 神聖かまってちゃん

「遺書を書く 今日がはじまる」で始まるのですから、良くも悪くも彼らは健在なわけです。集大成的といってよい、ボリューミーな内容。バンド内のバランサーという印象のあったちばぎん脱退後どうなるものかと、勝手に心配していましたが、の子のクリエイティビティはまったく衰えていない。それどころか、新たなピークに達しているようにすら思います。ぼとぼとと零れる、の子の言うところの「ゲロ」。「行方不明になった大人になれればいいかな僕は」(「卒業」)。こんなゲロ飲み込む私を含むリスナーってほんとにもう。

彼らのサウンドは、テクスチャーを強調するというか、ある種シューゲイザー的な側面があると思っていて、「ヨゾラノ流星群」などを聴くと、彼らが最高のシューゲイズバンドであることを痛感させられます。貫禄すら感じさせる充実作。

 

団地テーゼ

団地テーゼ

Amazon

 

8.「LUX」- Rosalía

強い。スペインのSSWによるアルバム。全15曲、3部構成の組曲の体をなした大作です。フラメンコや前衛的なエレクトロニクスなど、語るべき点は多々ありますが、私の耳はどうしても彼女のヴォーカルへと向かってしまう。ジャケットが示すイメージのとおり、数々の聖女が乗り移ったかのごとき歌声に、ただ打ち震えるばかり。豊かな起伏をもった作品ですが、特に劇的な冒頭2曲の圧倒的な強度。ふぁああってなります。聴くたびにふっわああああああって。ビョークの参加も含め、彼女の言うところのマキシマリズムを体感できる、シンフォニック・フラメンコ・オペラ組曲

 

 

7. 「Baby!」- Dijon

昨年、MK.Geeに乗り遅れた身として、ようやく20年代の波に乗れたか。中音域が強調され、低音がぼやけた独特のローファイサウンドに、時にスウィートで、時に激情的なヴォーカル。火の玉のようだ。チル感覚と、歌の圧倒的な情感の相乗効果。特に中盤「Rewind」から「my man」にみせてみせるシャウトも厭わないボーカルワークのすさまじさよ。加えてここがピークとは思えず、さらに別の境地へ辿り着くであろうポテンシャルを、あまりに楽しそうな音選びの余裕に感じます。底知れぬ才能。

 

Baby

Baby

  • Dijon
  • R&B/ソウル
  • ¥1630

 

6. 「The Spin」- Messa

訛りって魅力的ですよね。イタリア産のゴシック/ドゥームロックバンド。前作では地中海音楽を咀嚼した独特のサウンドを展開。本作では、前作までの経験を活かしつつ、80年代ポストパンサウンドを取り入れ、結果的に代替のきかない地中海訛りのゴシックロックが誕生しました。そうした訛りを個性として持ちつつも、彼らの音楽が与えてくれる快感は王道の強度を保つ。迫りくる真っ黒な津波への畏怖から、闇を切り裂きその先を疾走する爽快感まで。必聴は「The Dress」。終盤、メインリフから雪崩れ込むように疾走するブラストビート。圧倒的崩壊のカタルシスの後鳴くギターソロ。優勝です。

 

The Spin (輸入盤)

The Spin (輸入盤)

  • アーティスト:Messa
  • The Orchard
Amazon

 

5.「All Imperfect Summerland」- The Otals

日本のシューゲイザー/ドリームポップ・ユニット。街にひっそりと建つミニシアターのような作品。彼らは、自身らを模したアニメキャラクターのPVや、ストーリー性の高い歌詞を映像で再構築するなど、音楽を超えて多分野にまたがる表現手段を駆使し、世界観の作り込みを行っています。そして、その世界観、あるいは物語そのものが私の性癖に刺さるのですよ。。

あげる理由は内緒「シュシュをあげるよ」、海岸線に喪失感と寂寥が滲むホワイトノイズ「こっち向いてひまわり」、街を騒がす事件はきっと吸血鬼のような君のせい「マイロリポップナイトメア」。胸をぎゅっと締め付ける物語を、17曲の大ボリュームで展開。聴いてると情緒をぶっ壊される。

「あのね少年よ ここ(心臓)を撃ち抜いてくれないか 永いハリボテの永遠をひとかけの銀の銃弾で さあ撃って!」(「マイロリポップナイトメア」)

 

 

4. 「45 Pounds」- YHWH Nailgun

フジロックYouTube配信で彼らのライブを観ましたが、「俺にはこれしかねえ、だけどこれがある」という類の矜持に溢れたステージで、それはもうかっこよかった。素っ頓狂な音色のギター、どこかトライバルな高揚感を煽るドラム、苦しそうにシャウトするボーカル。どういう経緯で「この音楽をやろうぜ」ってなるのか、正直わからない。でも意味不明なのに、快感だけは脳内をスパークする。手探りでこの音に辿り着き、確信をもって鳴らす彼らがかっこいいよほんとに。私はつい、ちんけな脳で物事に意味づけをしてしまう癖があり、それが足枷になって動けなくなりがちなのですが、世の中「やっていき」こそ大事かと思いますのですごく勇気をもらいます。

バタイユの言うところの「労働」と対置される「祝祭」的な、プリミティブな躍動を感じる驚異のデビュー作。

 

 

 

3.「caroline2」- caroline

彼らが音合わせをしているスタジオに紛れ込み、様々な実験をしている様子を目撃しているような感覚になります。あまりにリアル。曲の展開がポップスのフォーマットから外れていること、極端に左右へ振られるドラムなど音の定位が歪なこと。理由はいくつも考えられますが、とにかくこの音楽を聴いていると、「今ここで音が鳴っている」という事実を強く意識させられる。

「when I get home」で、録音マイクを持って二つの部屋を行き来しながら録音したというエピソードにも表れているように、彼らは時に固定観念から外れたやり方で私たちを誘いますが、本作には事後的なPCエディットもみっちり行われていると思われ、そうした様々な演奏・録音・作編曲に施された工夫は、ともすれば生演奏以上に生物的な質感を喚起している。私にとってこの「生演奏以上に」、というところが面白い。リアルさをどこに感じているのか、改めて考えさせられます。驚異的な生(ナマ)の実感。

 

 

 

 

2.「かがやきの虜」- 蒼山幸子

ねごとのボーカリスト蒼山幸子は優れた観察者です。四つ打ちを基調としたエレクトロポップと、スウィング感を活かしたシティポップを中心とする音楽性はこれまでどおりですが、以前よりも明確に決意表明的な仕上がりの歌詞を読みながら、私は彼女の生きることへの眼差しに、食らわざるを得ませんでした。

「忘れないで今も私にはあなただけが天使」

「痛い目を見ても希望といたいみたい」

「百年後はいないあなたを覚えたい」(かがやきの虜)

「思いがけない愛をありがとう ぼやけかけてた世界がきれい」

「実験できる自由を日々と呼ぶのね」(えめらるど)

「あてもなく日向へ向かう僕らでいよう

予告もなくふいにトンネルは終わるからさ」(ダリア)

彼女の関心は、生活における自身の心象。傍から見れば些細な変化や出来事を正面から受け止め、時に受け流しながら、彼女が歌うのは、いかにして生き抜くのか、という問いへの回答であると同時に、結局、これまでどうやって生き抜いてきたのかという観察結果でもある。私は「かがやきの虜」であった。これからもそうありたい。しなやかで強い希望の表現としてこれ以上があるのだろうか。

続きはこちら

 

 

 

1.「EUSEXUA」- FKA twigs

人間が経験する究極的な陶酔や至福の感覚を意味する造語を表題を冠した、6年ぶりのフルアルバム。前衛的なエレクトロニクスや身体表現のイメージが強かった彼女が、ある種オーセンティックな機能性を持つテクノというジャンルを主軸に据えた。鑑賞前はこの点に戸惑いましたが、一聴してすぐにこの作品の虜になりました。

「EUSEXUA」の体感を言葉に起こすというのはきっと愚かなこと。それでも感じたことを書いていくのが私のやり方。本作は、感情を包括的に自己へと統合していくプロセスを表現しているのではないでしょうか。洗練されたビートに身を任せながら、喜びも痛みも区別なく感情が沸き上がらせる。こうした感情を一時の非日常体験として整理するのではなく、それらをひっくるめて自己であるということ、さらにはそれらがトリップ感の中でもともとの意味を変えながら自己の中に統合されていくこと。そういったプロセスを描いた作品だと感じています。ある意味で、「EUSEXUA」は自己刷新の感覚なのでは、と。

まるでこれまでの記憶の全てがスポットライトでスローに浮かび上がり、私の身体と共に舞いながら、やがて一つの光へ収斂していくようなイメージ。心に巣食う悪夢がオーロラに焼き付けられ、喜びのすべてが光となり、あらゆる戸惑いが私の中で踊る。彼女はインタビューで「私たちは美しい光」だと話します。「胸の内側にある光」だと。

彼女は「striptease」で「心を開くことはストリップショーのよう」と述べます。「EUSEXUA」を志向することは、安全な瞑想ではない。今以上の生きる価値を求めるなら時に地獄のような痛みを味わうことすらありうる。それでもなお志向すること。このそれでもなお、を感じさせるのがこの作品のキモとなっているように思います。彼女にはあまり似つかわしくない表現でしょうが、あまりに人間的で、泥臭い。まぶしい。とてつもなく。