2022年間ベスト

歳をとったなあという実感と同時に若くありたい、まだ青春は終わっちゃいねえという気持ちが強くなってくるお年頃、花盛り24歳な私ですが、久々に年間ベスト記事やっていきたいと思います。最近、音楽ってのは聴いてた当時の記憶を記録する媒体のようだなあとも思いまして、今年は各作品の短評にその作品に纏わる私のごく個人的な記憶を挟みながら綴っていけたらいいななんて思います。以下13作品、音楽的私小説

 

13位. In These TImes / マカヤ・マクレイブン

 

In These Times

In These Times

  • マカヤ・マクレイヴン
  • ジャズ
  • ¥1528

鬼のように緻密な音響処理を施されたモダンジャズ。あまりにも聴き心地がいい。極めて構築的でありながら、一方で生き物のような肉体的な快楽性がダイレクトに伝わってくる作品で、もう大好き。インストオンリーのジャズって言うととっつきにくいイメージがやはりあるけど、これはメロディアスで纏っている空気感がクールすぎるから絶対誰でも聴きやすいので是非にお手に取ってほしいなという気持ちですね。

書いてる今、訳あって私は祖母の家にいるんだけども、田舎に一人で暮らす祖母の生活の静謐さと美しさを40年間染み込ませ続けたこの家に、モダンでオールディーズなこの音楽が合わないわけもなく、一人で大変エモくなっております。できるだけ帰ってくるようにするよ。

 

12位. Beautiful Distorsion / The Gathering

 

Beautiful Distortion

Beautiful Distortion

  • The Gathering
  • ロック
  • ¥1222

本作品について、ギャザリングのメンバーが近年顕わになってきている社会や世界の「歪み」に気を取られて見つけることが難しくなっているものを表現したいという旨の発言をしていたことが強く印象に残っています。それはずばり「美しさ」。綺麗な景色を見たり、美声を聴いた際に湧き上がる、現実からふと浮遊するような感覚。ただ「美しい」としか言いようのないジャンルレスな音の洪水が本作には収められています。当初、彼らがゴシックメタルバンドであったと本作だけを聴いて想像するのは中々難しいけど、それは彼らはジャンルに従事しているわけではなく、音楽に従事しているということの裏付けなんだと思う。枯葉の落ちる音も聞こえてきそうな、静謐で統制された美。

今年のゴールデンウィークにこの作品をよく聴いていました。社会人になったばかり、見ず知らずの土地で文字通り心をすり減らしていた私に、大丈夫、あなたは美しいものを知っているからと、声を掛けてくれたのはこのアルバムだったように思うのだ。大丈夫大丈夫と何度も自分に言い聞かせていたあの頃。

 

11位. Based On A feeling / Sabrina Claudio

 

Based On A Feeling

Based On A Feeling

  • Sabrina Claudio
  • R&B/ソウル
  • ¥1069

むせかえるほどの湿度をもったR&Bポップスの一枚。サウンドや声の濃密すぎる質感はまさしく官能の美。カッコつけずに言えばえっちなんですよね。彼女の官能趣味は音楽だけでなく、そのアートワークなどにもよく表れていて、部屋に飾っておきたい一品すぎて好きすぎる。

個人的な考えですが、性にまつわる表現が持つ強烈な魅力は、そもそも生殖に発端する性の本質が、生きることへの希求と切っても切り離せないことに由来するように感じています。だから私はもっともっと強烈な官能を表現して欲しいなって思ったりするんですよ。生きることの切実さは生きる勇気にもなる。R18濃密版。

 

10位.  Woe / An Abstract Illusion

 

Woe

Woe

  • An Abstract Illusion
  • メタル
  • ¥1935

7部から成る1曲60分の悲惨のタペストリー。苦しみの激痛を、狭間に訪れる寂寥の感性を、何もかもを振り切らんばかりに疾走するやけくそさを、どろっどろによーく煮込んだ、アトモスフェリックデスメタル。複雑に入り組んだ構成ながらも、アトモスフェリック、時にアンビエントな音響、巧みなインタールード処理によって聴きにくさはあまりないです。(当社比!)

やはり私にとって今年は働き始めたことが大きなトピックなんだけど、労働で精神的に疲弊した時って、繊細で集中力を求められるような作品が頭に入ってこないんですよ。そんな時にメタルの肉体性故の即効性にはかなり救われて、中でも少し知的な構築性のある叙情メタルはよく効きました。その中で際立って好きだったのがこれ。

 

9位. Cool It Down / Yeah Yeah Yeahs

 

ヒーローの帰還。ゼロ年代のアートパンク界のカリスマ、KarenOの魅力については語るべくもなく、帰ってきてくれてありがとうしかない。全体的にミドル~スローテンポ、グラマラスな装飾を纏ったシンセポップという感じだけど、個人的にはタイトル通りクールダウンしていく感覚と高揚する感覚が併存している感じが堪らなく好き。「Spitting Off the  Edge of the World」は彼女たちの新しいアンセムと言えるのではないでしょうか。思えば何かを成し遂げた時、やり終えた時、焼失の感情と共にこのアルバムをよく聴いていた気がする。私を無敵にしてくれる音楽が私は好きだ。

 

8位. 言葉のない夜に / 優河

 

Wordless Nights

Wordless Nights

  • 優河
  • J-Pop
  • ¥2241

音楽が埋めてくれる夜の時間はどこまでも優しい。素朴なフォークが楽曲の骨格ですが、耳を惹くのは、音響処理の緻密性。奥行きのある、立体的なサウンドデザインは、平坦になりがちなフォークの聴かせどころを強調し、または楽曲間の繋ぎを円滑にし、この上ない没入感を生んでいます。全方位から私を感動させてくれる素晴らしい一枚。知らず知らずのうちにスピンしがちでした。

このアルバムは夏頃初めて聴きました。その頃は本当に生活が辛くて、眠れない日が続いていました。学生時代に求められる能力とは全く異なる能力を求められるなかで、自信はなくなり、人間関係の円滑さも失われて、気付けば何をすれば自分が喜ぶことができるのか、笑うことができるのか分からなくなった。うちの会社では、夏に連休が取れる制度があるんだけど、折角の連休なのに心が全然休まらなくて、仕事の憂鬱な感覚だけが頭を占めていました。ちょっとした休暇中の出来事も、仕事での感情と結びついてしまって、喜びにならない。心が迷子になる、負のスパイラルに落ちていってしまうあの感じ。連休は全然楽しめなくて、楽しめない自分が嫌で、その時見た心療内科の待合室の様子だけが、脳裏に刻み込まれています。

 

7位.Highlight / 蒼山幸子

 

Highlight

Highlight

ねごとのボーカリストによるソロ作。シティポップ的なチルアウト感覚と四打ち主体の縦ノリの高揚のミックス。かわいらしくも足場の強固さを感じさせる声に乗っかる、耳馴染はいいけど嫌味なくフックの効いた歌詞がぐさぐささってくる。いや、もう完璧なポップスなんですよ!

社会人1年目であると同時に、最後の学生生活を過ごすことになった2022年でもあるわけですが、卒業後に学生時代の思い出や青春の感触とどう付き合っていけばいいのかってのをすごく感じた年でもありました。上手くいかない新生活の一方で、苦々しくも輝かしい学生時代の自分との乖離に苦しんだ。年末を迎えた今でも答えは全然わからず。要はモラトリアムですが、もうやけくそで、学生バリのオールナイトを身体に鞭打って重ねながら後悔ばかりしてたんだけど、そんな夜明け時に見る朝日ってもう、いつもの井の頭公園で見上げる星空ってもう、食いきれない牛丼ってもう、神秘なんですよ。そんな時よく聴いてました。なんの話だこれ。

 

6位. Beatopia / ビーバドゥービー

 

Beatopia

Beatopia

90年代オルタナティブロックが好きで、胸キュンドリームポップも好きで、キュートだけどかっけえものが好物なんだから、嫌いなわけがないよね!!今年イチのアンセムTalk」をはじめ彼女の世界を強烈に提示して見せた傑作です。

今年は1年半ぐらい一緒にいた恋人と別れた年でもありまして、今になって思えば別れて正解だったなあと思うんだけど、別れたばかりの時は涙ってこんなに出るんだってくらいには泣いたし、職場でも泣いたし、思い返して苛立ったり、自分を責めてみたりもするんだけど、そういうのぜーんぶひっくるめて良い出会いだったなって思うんだよね。全然アルバムかんけいねえじゃねえか!「lovesong」聴くとこんな感じで自意識だだもれしますのである意味要注意。

 

5位. PHALARIS / DIR EN GREY

 

PHALARIS

PHALARIS

「憂いを貪り食う自覚の虜」というのはこのアルバムの歌詩の引用になります。私は心配事があって夜眠れない時に、自分の葬式の様子を想像してしまうことがある。この人泣いてるな、この人気まずそうだななどと想像し、騒がしかった心が静けさを取り返していく。なんやねんこの生活。ああでもこれって、この歌詩に重なるなって。。。

上記の海外メタル勢にも呼応するように、しかしそれとは一線を画しながら、DIR EN GREYは苦悩を、悲しみを、痛みを歌い続けてしました。生きなくてはならない。なぜ。生きたくない。私は最早人間ではないのか。そんな悲しすぎる禅問答を京は叫び続けてきました。そこに痛みがあるから、それを叫ぶ。その表現の動機は決して健康的なものではないかもしれませんが、この時代に求められている、カタルシスを間違いなく燃え滾らせています。「あと何年ですか まだ生きるんですか」

 

4位. for you who are the wronged / キャサリン・ジョセフ

 

for you who are the wronged

for you who are the wronged

  • キャサリン・ジョセフ
  • シンガーソングライター
  • ¥1375

今回のラインナップの中でも私らしいというか、好みど真ん中ストレートな作品。もうタイトルから良すぎるって!!極めて少ない音数と囁くような歌唱が強調するのは、沈黙した空間。同時に彼女の歌声は、見てはいけないものを見てしまう時のような、畏怖の感情を喚起する。

冬のある週、東京から静岡への帰路、大規模遅延した新幹線の影響を被って、3時間ほどホームに至る階段に座り込んだあの晩。町はクリスマスの様相の華やかさと、遅延による苛立ちと、年末特有のエモーショナルさとを湛えて佇み、私はと言うと騒音の中でこそ感じる孤独の感性を刺激したくてこのアルバムをスピン。はじめの一音でただでさえ低い気温は下がり切り、ガタガタ震えながら、その甘美さにわななく変態は私でした!暗黒音楽オブザイヤー。

 

3位. Close / Messa

 

Close

Close

  • Messa
  • メタル
  • ¥1528

イタリア産ドュームメタル。地中海の伝統音楽を果敢に取り入れ、幽玄な世界に深みを与えています。思い出すのは、長距離移動。今年から静岡に住むようになったのですが、友人の多くは東京にいるため、結構な頻度で東京と静岡を行き来する生活だったんで、今年は長距離移動の機会が多かったんですよね。そういう時、小旅行の感覚の時に聴いては、織り込まれている表現の豊かさに感服してばかりだったのがこの一枚。アンサンブルの強固だから長時間の視聴に耐え得る聴き心地の良さがあり、かつ、上記の通り伝統楽器まで取り入れた無国籍な作風のもたらす独特なトリップ感がベストマッチでした。基本私は旅行ってあまり好きじゃないんですけど、もしかって旅って楽しい?2023年は挑戦してみようかなと思います。

 

2位. phenomenon / white lung

 

カナダのパンクバンド最終作。にして最高傑作。纏わりつく煩悩を吹き飛ばすノイジーサイケデリック・ギターサウンドを、激情高速ビートに乗っけて、ポップなメロディーを潤滑油にすりゃあ、もう負けるわけねえ。

私、メンタル不調や失恋だなんだで、今年の後半の生活のテーマは「そういったものを振り切っていく圧倒的なパワー」だったんですよね。生気を失くしたどろどろの心が、身体の内側にへばりついて、その重みで身動きが取れなくなった時に力をくれる音楽って、迷いを断ち切る勇気を与えてくれる音楽で、俺にとってはそんなんパンクしかあり得ねえだろというわけで、泣き笑いで伝えたいです。ありがとう。走り切るやつはかっこいい。

 

1位. Flood / Stella Donnelly

 

Flood

Flood

ギターメインで作曲された楽曲で構成された前作と打って変わって、ピアノを相棒に制作されたという本作。その結果は果たして、彼女の持つ魔法のような陽性のピュアネスを何重にも深めて、広げることに成功。全体のほとんどの曲はミドルからスローテンポの曲で占めらているのも、作曲楽器が変わった影響でしょうが、心の機微を(決してしみったれることなく)丁寧に歌い拾うような彼女のスタイルに良く合っている。また、アレンジや音響の作り込みは必要程度で決して過剰にならず、かといって簡素でローファイ強めの方向に行くわけでもない、絶妙な匙加減の作り込みが、本当の意味での飾らない魅力というかをプッシュしているように感じました。

正直これまでだったら、私はこのアルバムを1位に選出することなかったんだろうけど、上につらつら書いた色んな出来事や経験がもたらした変化によってか、悲喜交々すべてのかけがえないものをかけがえなく感じ取ることに強く価値を感じて、このアルバムを1位にするしかないなと今回記事を執筆するにあたって思いました。雁字搦めになって見失っていた、素直な心が見えてくる感覚がこのアルバムにはあります。ステラの陽光たる歌声は宝物のように私の心に居座ることでしょう。きっといい明日が来るって感覚をくれたアルバムを最後に紹介出来て、私は嬉しいです。