トロイメライ / Plastic tree

 

2002年作。遊園地なのに陰鬱な影のかかるジャケットがとても象徴的ですね。幸福の象徴のような場所、人が人らしく笑い合う場所に自分もいるはずなのに、視界に靄がかかり前がよく見えないし、気分も晴れない。だんだん周囲の声が遠くなり、、「不安定 不安定 考えるのも嫌だ」(「理科室」より)。一人の世界に閉じこもる僕は自閉気味。そんな音世界が繰り広げられる名盤。

ボーカル有村竜太朗のパフォーマンスを見ていると、ステージ上にいるはずなのに心ここにあらずな印象を受けるときがあります。彼が何を見ているのか、目で追い、考えていくうちに、気づくと彼の幻想世界の中に入り込んで出られなくなってしまっている。plastic treeは彼の文学的素養を活かした卓一した歌詞、不安定な歌唱、シューゲイズされた轟音、全ての要素が密接に絡み合って私たちを夢幻の世界へ招待してくれるようなバンドだと私は感じています。

 

本作ではcoaltar of the deepersnarasakiさんの手が加わり、前作までと比べて、ギターがかなり分厚い作りになりました。シューゲイザーでありながらメタリックなディーパーズ譲りの轟音がとても気持ちよく、新鮮な魅力を放っています。「グライダー」「散リユク僕ラ」等シンプルにロックとしてカッコいい。現代に至るまでのプラらしい音像がここで完成したように思います。メロディはより親しみやすさを湛え、歌詞は以前よりも現実的な情景を描き出す。冒頭「理科室」で描かれるのは学校での一コマ。現役の学生というよりは卒業して随分経ち、夢うつつに思い出した情景とでもいうような。「理科室で外を眺めていた グラウンドは誰もいないや 僕はただ火をつける真似 灰にするそっと全部」(「理科室」より)。あのころのちょっぴり陰鬱な空気。下手したらトラウマにもなりかねない記憶を、プラは優しく溶かして料理してくれるから、私たちの心をつかんで離さない。麻酔中毒の海月たち。でもこのようにしてしか弱い弱い私たちは痛みを受け入れることが出来ない。

音楽鑑賞が性体験に重ねられることが度々あるように思いますが、私はプラの音楽でよくそんな気分になります。「なんとなく 浮かんでいるような そんな気分 まるでグライダー」(「グライダー」より)。私が現実逃避的に性や音楽に逃げるからなのでしょうか。私の中の性体験は彼らの音楽に近い、舌触り。「センチメンタル感じながら―――そっちまで行くから」(「グライダー」より)。そして、「離れていく僕の後ろには悲しみが小さくなっていく」(「プラットホーム」より)。何もかも忘れてしまえばいい―――。快楽に身を委ねる。

その世界では痛みも遠く、雨すら優しい。本作で描かれるのは幻想的ながらも現実と地続きな情景です。プラットホーム、理科室、雨の日、、。その何気ない情景に込められたちょっとした陰鬱で湿っぽい空気を少し楽しく揺らしてくれる。「絶え間なく降り注いだ 僕が雨ニ唄エバ はしゃいでいる目の前が全部ぼやけていく」(「雨ニ唄エバ」より)

 

 

トロイメライ

トロイメライ

  • アーティスト:Plastic Tree
  • 発売日: 2002/09/21
  • メディア: CD