2020 Best part2 Tokyo
東京という街。日本という国。希望はどこにある――ここにある。ということで年間ベストpart2は邦楽中心の東京を思わせるアルバムたちをセレクト。少々自分語りが過ぎますがお許しを...
9.The sofakingdom / PUNPEE
東京のラッパーのEP。すっかりポップスターなPUNPEEは安心して聴ける高品質な品をまた出してきました。完全に私情なのですが、割とコロナ禍で参っているタイミングでこれを聴いて、実家のような安心感を感じてほろりとしてしまったんですよね。その意味でこの作品は私の今年の安定剤だった。ヒップホップが大好きな友人との共通項としてPUNPEEは機能して、PUNPEEを結節点に色んな話に花を咲かせたのもいい思い出。
8. ねえみんな大好きだよ / 銀杏ボーイズ
ストレートでポップで、なんというか規格外な感じは正直薄れたように感じましたが、それを補って余るほどの純粋な曲の良さに打たれました。青春パンクに始まり、ノイジーで強烈な前作を経て、メンバーを全て失った今、銀杏は峯田のライフワークなのかと思います。ある人の人生そのものが芸術となり得る稀有なアーティストとして今自分は銀杏ボーイズ及び峯田和伸を見ています。よく言われる言説ながら、彼の人生に同時代において触れることが出来ることが嬉しい。
7.THE PARK / 赤い公園
丁度新ボーカル石野が加入してすぐ、私はビバラにて彼女たちを見て、その純粋に音楽を楽しむ姿に魅了されました。本作は新メンバーでの最初のアルバム。綺麗に新生赤い公園をパッケージングした纏まった作品ながら、本作の発するポジティブなイメージは強固。円熟した変態じみた演奏に乗る初々しさ残るボーカル、それらが合わさった時に表出するみずみずしさにいたく感動しました。バンマス津野の亡き今もそのみずみずしさは本物だったと信じています。彼女たちは確かに生きたバンドだった。「yumeututu」はまだ続いている。
6.極彩色の祝祭 / ROTH BART BARON
ベタでも連帯を真摯に歌う歌には、どうあがいても抗えない良さがある。勿論今年の情勢相まってのことではあるのですが、それを差し引いてもあまりに感動的な仕上がり。「あなたの声を忘れないように」。bon lverらしさを強めながらも歌物として隙のない丁寧な造りが幾たびの鑑賞にも耐え得る強さを放っているように思います。
5.worst / KOHH
去り際の美学。これまでもKOHHは自身の信条・心情を明け透けに語るスタイルで孤高の地位を気づいてきました。そのさらけ出し方はこちら側が痛さを感じてしまうほどで、その真摯な叫びは強烈だった。最終作たる本作では甘い恋愛詩や親への感謝などが語られながら、自身を嘘つきだと断罪する一面を見せるなど、より身近にKOHHを感じさせる内容。これまでのKOHH作品を聴き続けた身として、紆余曲折の末彼がたどり着いた場所がここかという感慨がある。変わらないように見えて変わっていく人生を最低だと吐き捨てながら、ごめんねありがとうと囁く。ごめんね、ありがとう。許し許され、何はともあれ生きていく。
4.POWER / 羊文学
東京のロックバンドメジャーファースト。インディーズの頃の思わず冷っとするような視線の純粋な鋭さが大分薄れ、温かい表現が増えましたね。音としてはより簡素な3ピースオルタナサウンドになり、正直もっと音楽的冒険をして欲しい気持ちもあるのだが、全編聴いたら納得せざるを得ない完成度。「聴く人のお守りになってくれたら」という言葉の通り、多くの若者にとって「お守りに」なってくれそうな作品。簡素で饒舌すぎない表現が聴き手に創造の余地を与え、音楽を「聴き手のもの」にしやすくなっているような心地。これを師走に出すのだから、いやでも今年も生き延びたことに感謝せざるを得ない。
3.アダンの風 / 青葉市子
童謡のよう。大人になって久しぶりに児童書を開いたり、童謡を聴いたりすると、子供の頃は何も感じなかった作り手の大人の想いやメッセージが透けて見えて、時にほっこりし、時に戦慄する。少し、怖い感じがする。この作品を聴いた時の私の気持ちもそのようなもので、こころが否応なく揺さぶられてしまった。勿論これは童謡ではないが、青葉市子の歌声は私を幼子にしてしまうように、なすすべなく私を揺さぶる。揺りかごのなか、胎内回帰の倒錯に触れた。
2.MISC. / DIMLIM
「変化を進化と呼べない愚かな者たちよ」。けんか腰だ。それでも、私たちを振り切ろうとして変化しているわけではないのでしょう。自身の為に、表現したい欲動の為に変化せざるを得ない。DIR EN GREYの憧憬からマスロックへの接近。V系×マスロックというコラボが、新たな地平を切り開いてくれました。こういう切実な変化から私は目が離せない質なのだと改めて感じました。彼らはより広い海に船出しようとしている。その先にあるのは侵略ではなく、きっと更なる自身の変化になるだろうと予感させるからこそ、彼らの変化は進化なのだ。
1.狂 / GEZAN
2020を代表する一枚。個に帰り、考えろとひたすら集団に流されることを拒否するかのような思想は過激にも映りますが、2020という時代に必要とされる真の力なのかもしれません。「幸せになる、それがレベルだよ」に行き着くまでのアルバムの流れに彼らが闘い続けてきた道程を感じ取り、思わず涙が流れてしまいます。勿論「GEZANを殺せ」の言葉通り彼らの言葉を鵜呑みにするのとも違う。私たちはGEZANと対決することになる。私の場合その対決は今日を生きる勇気になった、とだけ言っておきましょう。