Merry go round/ さとうもか

 ファンタジックでかわいいネスに満ちたコーヒータイムを。「不思議の国のアリス」を胸に抱きしめた少女が、抱きしめた手はそのままに大人になった、きれいな世界だけじゃ生きれないことを知った、それでも、「かわいい」っていう小さな感情を大切に育てて来た。そして生まれたのがこの現実と地続きな不思議なファンタジックさを零れんばかりに詰め込んだ、とびっきりな「かわいい」アルバム。

 

 上の冒頭文は完全に私の妄想を文章にしたものだ。どこにも作者たる「さとうもか」によって語られた事実はない。私がこのアルバムを聴いて抱いた感想を、私の中の「さとうもか」像を思い浮かべながら、語ったものだ。それほどにイマジネイティブな可能性に満ちた「かわいい」アルバムだ。

 「不眠症の花」と名付けられたインストはその「かわいい」が表層的なものではないことを表すかのよう。すっかり忙しない日常に疲れた私たちの脳は、何かにちょっとずつ苛まれ、安らぐ睡眠すら享受できない。そこにそっと花を植え付ける女性が、ひとり。

 「雨の日のストール」はチルアウトした心地ながら、朝につき纏うあの不安を煙草の煙かのようにまとっている。作中でも不思議さとかわいさが絶妙に混ぜ合わせた白眉の一品。雨の日の特別なストールにあなたはどんな思い出を垣間見るか。

 「ばかみたい」はゆったりとポップに愛になる前の恋でしかない恋を歌う。入江陽のさとうもかへの返答もまた美しい。彼の歌で作中に含まれる切なさがより引き立つ。分かりやすい異性の提示とも言えるだろうか。恋をもっともっと近くに感じる。

 更にポップに振り切った「Loop with Tomggg」。手に取れない愛おしさが零れ落ちて、跳ねる。跳ねた先、次の曲名が「スキップ」なのが秀逸だ。

「私はあなたと友達になれて本当に良かった。」作中私の涙腺をもっとも刺激したのは「友達」。もう一生会うことはないだろう、自分と違う文化圏にいた、のに通じ合っていた、そんな友達。共通点は「生きるのと恋をするのがへたくそ」だってこと、それで十分素敵な出会いだったよ。友達になれて本当に嬉しかった。あなたは私の恋の副産物なんかじゃなくて、大切な大切な友達。

 後半「歌う女」等変わり種の曲が混じって情景はさらに深くなる。ディズニー音楽家のようなメロディーの「merry go round」も印象的。ちょっと大人になっていく。

 クロージングは跳ねるような丸みを帯びたビートに、ひと夏の恋をこれでもかってほど青く、ありのままのようでとっても美化して描く「melt summer」。美化していいじゃない、その方がかわいいし、いずれにしても、その背後の嬉しさとか悲しみだとか、ちゃんと伝わるよね。むしろ、「かわいい」フィルターを通すことによって、リアルな鋭い心の動き、伝わるんだ。

 夏に溶かした感情、ちゃんと残ってるんだよ。